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循環器内科

循環器内科・心臓外科合同抄読会 平成27年10月

平成27年10月27日(担当:兼光)

A Multicenter Trial of Remote Ischemic Preconditioning for Heart Surgery
N Engl J Med 2015;373:1397-1407

Remote ischemic preconditioning (RIPC) は心臓手術を受ける患者において虚血のバイオマーカーや再還流障害を減らすと報告されている。しかし、臨床的な転帰に関しては不確実さが残る。
前向き、二重盲検、多施設、ランダム化試験を行った。
対象は、プロポフォールによる全身麻酔下に人工心肺を要する待機的心臓手術を受ける予定の成人。
上肢のRIPCと擬似手技との比較を行った。
一次エンドポインは、入院期間中の死亡、心筋梗塞、脳卒中、急性腎不全の合計とした。
二次エンドポイントは、90日間の死亡、心筋梗塞、脳卒中、急性腎不全の発生とした。
1403人の患者をランダム化し、完全な解析を1385人(RIPC群:692人;SHAM群:693人)に行った。

  複合PEP 死亡 心筋梗塞 脳卒中 急性腎不全
RIPC群 99 (14.3%) 9 (1.3%) 47 (6.8%) 14 (2.0%) 42 (6.1%)
シャム群 101 (14.6%) 4 (0.6%) 63 (9.1%) 15 (2.2%) 35 (5.1%)

実施計画に合致した集団の解析やサブグループ解析でも両群間に有意差はみとめなかった。
その他、両群間にトロポニン値、機械換気時間、ICU滞在時間、入院期間、新規心房細動発生率、術後せん妄発生率に有意差は認めなかった。
RIPC関連の有害イベントは観察されなかった。
プロポフォール麻酔下の上肢RIPCは待機的心臓手術を受ける患者に有益性を示さなかった。

平成27年10月20日(担当:佐竹)

Adenosine triphosphate-guided pulmonary vein isolation for atrial fibrillation: the UN masking Dormant Electrical Reconduction by Adenosine TriPhosphate (UNDER-ATP) trial. Eur heart J. 2015 doi:10.1093/eurheartj/ehv457.

【研究目的】
心房細動(AF)に対する肺静脈隔離(PVI)後の心房性頻脈性不整脈再発のほとんどは,左房-肺静脈間の再伝導により発生する。従って,この再伝導を永久的に遮断することが重要である。本試験はカテーテルアブレーションを施行するAF患者において、アデノシン三リン酸(ATP)ガイド下PVI vs 標準的PVIで、心房性頻脈性不整脈再発の抑制効果を検証した。また、同時に、アブレーション後90日間の抗不整脈薬(AAD)投与 vs プラセボ投与における心房性頻脈性不整脈再発の抑制効果も検証している。(未報告:EAST-AF試験:Efficacy of Antiarrhythmic drugs Short-Term use after catheter ablation for Atrial Fibrillation)。

<方向>

【研究デザイン】
2×2無作為割付け多施設研究(日本: 19施設)

【フォローアップ】
登録期間は2011年11月~2014年3月。追跡期間は384日(中央値)。

【対象患者】
2,113例。21~79歳,発作性・持続性・長期持続性AFに対する高周波カテーテルアブレーション初回施行患者。

【除外基準】
ATPまたはVaughan Williams分類I群・III群AAD禁忌(重度の気管支喘息・冠攣縮性狭心症・徐脈など),腎機能障害,NYHA心機能分類IV度,EF<40%,左房径>55 mm,AF罹病期間≧5年,心筋梗塞発症後<6か月,重症弁膜症など。

【患者背景】
平均年齢(ATPガイド下PVI群58.6歳,標準的PVI群68.5歳),男性(77.0%, 72.7%, p=0.01),BMI(24.3, 23.7kg/m²),AF罹病期間(23.3か月,26.4か月),AF病型(発作性:66.3%, 68.2%;持続性:22.0%, 23.4%;長期持続性:11.7%, 8.4%),CHADS2スコア(≦1:81.8%, 64.6%;2:12.7%, 21.5%),高血圧(47.6%, 58.9%),EF(64.2%, 64.6%),脳卒中・一過性脳虚血発作既往(5.9%, 10.8%),クレアチニンクリアランス(94.6, 74.4mL/分),無効AAD数(0:42.5%, 39.4%;1:39.3%, 41.1%;2:13.0%, 13.8%),経口抗凝固薬(warfarin:30.3%, 36.7%;dabigatran:46.7%, 41.3%;Xa阻害薬:17.9%, 19.2%, p=0.002),抗血小板薬(8.0%, 13.2%),β遮断薬(35.2%, 36.1%),ACE阻害薬・ARB(33.6%, 42.5%),Ca拮抗薬(30.0%, 40.9%),Vaughan Williams分類I・III群のAAD(30.0%, 31.0%)。

【手技背景】
左房roof line(18.2%, 21.7%, p=0.04),総通電回数(106回,101回;PVIのみ:83.7回,80.4回,ともにp=0.02),総通電時間(47.1分,45.5分;PVIのみ:37.1分,35.1分[p=0.005]),初回PVI成功~最終確認の時間(67分,61分),総手技時間(195分,192分),放射線量(399mGy, 370mGy)。

【アブレーション方法】
全例に広範囲同側肺静脈同時隔離法によるPVIを施行し,初回成功後に一定時間待機して自然発生再伝導が認められれば再焼灼を実施。ATPガイド下PVI群(1,112例):さらにATPテスト(ATP 0.4mg/kgの急速静注により不顕性PV伝導が顕在化するかを確認)を行い,再伝導が認められた場合は消失するまで焼灼を追加。消失が困難な場合に焼灼を中止するかどうかは術者に一任した。標準的PVI群(1,001例):ATPテストを行わない。その他のアブレーションを行うかどうかは術者と担当医に一任し,90日間のブランキング期間中のアブレーションは行わないよう強く推奨した。層別ランダム割付け時にシステムのプログラミングエラーのため2群間に不均衡が生じたが,事前に決定されていたCox比例ハザードモデルにより,層別変数(年齢・性別・施設・AFの病型)と90日間のAAD投与を調整して解析。

<結果>

【アブレーション成績】
初回PVI成功後(中央値43分)に自然発生再伝導を認めたのは,ATPガイド下PVI群474例(42.6%),標準的PVI群419例(41.9%)。ATPガイド下PVI群におけるATPテスト実施率は97.7%,ATPは初回PVI成功後57分(中央値)に投与された。ATPにより不顕性PV伝導が顕在化したのは307例(27.6%),このうち追加のアブレーションにより不顕性伝導が消失したのは302例(98.4%)。

【一次エンドポイント(心房性頻脈性不整脈の再発)】
死亡は5例,追跡不能は6例。1年後の心房性頻脈性不整脈の再発回避率に両群間で有意差は認められなかった(ATPガイド下PVI群68.7% vs 標準的PVI群67.1%:調整ハザード比0.89;95%信頼区間0.74~1.09, p=0.25)。発作性 vs 非発作性,左房アブレーション追加の有無などによるサブグループ解析の結果も同様であった。

【二次エンドポイント(再セッションの有無)】
1年後の心房性不整脈に対する再アブレーションにも差はみられなかった(0.83;0.65~1.08, p=0.16)。 ATPによる不顕性PVの顕在化を認めた症例と認めなかった症例の比較でも,心房性頻脈性不整脈の再発,再アブレーションともに差はみられなかった。

【手技の合併症】
周術期の死亡は両群ともになく,喘息,冠攣縮性狭心症,持続性低血圧(<90mmHgまたは昇圧剤投与を要するもの)などのATPに関連する合併症にも差はみられなかった。

【結論】
AFに対するカテーテルアブレーションにおいて,ATPガイド下PVIは標準的PVIにくらべ1年後の心房性頻脈性不整脈再発を有意に抑制はしなかった。

平成27年10月13日(担当:吉永)

Incidence and risk factors of postpericardiotomy syndrome reqiring medical attention: The Finland postpericardiotomy syndrome study.
J Thorac Cardiovasc Surg.2015 May;149(5):1324-9. doi: 10.1016/j.jtcvs.2015.01.031.

【目的】
心膜切開後症候群は開心術後の合併症の一つであるが、治療や入院を要する心膜切開後症候群の発生率や予測因子についてはよく知られていない。そこで発生率や予測因子を調査するのことがこの研究の目的であった。

【方法】
2008年~2010年に単独CABGが行われた688例を対象に後ろ向き調査が行われた。

【結果】
688例のうち、61例(8.9%)が心膜切開後症候群を発症した。診断日までの中央値は21日。13例が胸腔ドレナージ、3例が心嚢ドレナージを要した。
心膜切開後症候群を発症した群と発症しなかった群を比較すると、発症した群で、1単位もしくはそれ以上の赤血球輸血を行われた症例が有意に多かった。
また、発症した群で、糖尿病の罹患率が有意に低く、メトフォルミンを内服している症例が有意に少なかった。
多変量解析では、腎不全と1単位もしくはそれ以上の赤血球輸血が、心膜切開後症候群発症の独立予測因子で、糖尿病が保護因子であった。
61例のうち23例(38%)の症例で再燃を認め、BMIの増加が再発の予測因子であった。

【結語】
治療を要する心膜切開後症候群の発生率は、今回のstudyでは、8.9%と過去のstudyの10-40%と比較すると低かった。
心膜切開後症候群は赤血球輸血と関連しており、糖尿病の患者では少なかった。