診療科のご案内
循環器内科
循環器内科・心臓外科合同抄読会 平成28年
2016年12月6日(担当:吉永)
Randomized Trial of Bilataral versus Single Internal-Thoracic-Artery Grafts
November 14, 2016 DOI: 10.1056/NEJMoa1610021
N Engl J Med 2016; 375:2540-2549
[PubMed link] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27959712
【背景】
CABGで両側内胸動脈をグラフトとして使用した症例は、片側の内胸動脈プラス静脈をグラフトとして使用した症例と比較して、長期予後を改善させるのではないか?ということを検証しています。
【方法】
片側の内胸動脈を使用した群と両側内胸動脈を使用した群にランダムに振り分けてCABGが施行されました。
Primary outcome は10年の時点の全ての死亡です。
Secondary outcomeは全ての死亡、心筋梗塞、脳卒中といった心血管イベントです。
臨時の解析がフォローから5年の時点で行われました。
【結果】
2004年6月から2007年12月までの3102例の症例のうち、1554例が片側の内胸動脈を使用された群、1548例が両側内胸動脈を使用された群にランダムに振り分けられました。
フォローから5年の時点での死亡率は、両側の群で8.7%、片側の群で8.4%、P値 0.77で有意差はありませんでした。
死亡、心筋梗塞、脳卒中といった心血管イベントの発症率は、両側の群で12.2%、片側の群で12.7%、P値 0.69で有意差はありませんでした。
胸骨創合併症は、両側の群で3.5%、片側の群で1.9%、P値 0.005で有意に両側の群で多く、また、胸骨再建の割合も両側の群で1.9%、片側の群で0.6%、P値 0.002で有意に両側の群で多いという結果でした。
【結語】
片側の内胸動脈を使用した群と両側内胸動脈を使用した群では、フォローから5年の時点で、死亡率、心血管イベントの発生率に有意差はありませんでした。
胸骨創合併症は、片側の群より両側の群で多かった。
平成28年11月29日(担当:武田)
Prevention of Bleeding in Patients with Atrial Fibrillation Undergoing PCI
November 14, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1611594
【背景】
心房細動を有する冠動脈ステント留置患者に対し、VKA(ワーファリン)+ DAPT(アスピリン+P2Y12 阻害剤)の従来治療は血栓塞栓症を予防するが出血リスクは増大させる。これに対しNOACであるリバーロキサバンによる抗凝固療法に加え、SAPTあるいはDAPTを併用した際の有効性,安全性は不明である。
【方法】
冠動脈ステント治療を施行した非弁膜症性心房細動2124例を、以下の3群に無作為に割付した。
グループ1:低用量リバーロキサバン(15mg1日1回)+P2Y12 阻害薬 12ヶ月間
グループ2:超低用量リバーロキサバン(2.5mg1日2回)+DAPT 1, 6, 12ヶ月間
グループ3:VKA+DAPT 1,6,12ヶ月間
主要安全評価項目は臨床的に明らかな出血(大出血+医療上注意を必要とする出血)とした。
【結果】
臨床的に明らかな出血についてはリバーロキサバン投与の2群(低用量、超低用量)とも、VKA群より少なかった。心血管死,心筋梗塞,脳卒中は3群で有意差を認めなかった。
【結論】
ステント施行後の心房細動患者においては低用量リバーロキサバン+P2Y12 阻害薬(12ヶ月間)と超低用量リバーロキサバン+DAPT(1,6,12ヶ月間)は標準治療のVKA +DAPT(1,6,12ヶ月間)に比べて,臨床的に明らかな出血が有意に少なかった。3群は同様な有効性を示した。
平成28年10月25日(担当:齋藤)
Prevalence of Pulmonary Embolism among Patients Hospitalized for Syncope
N Engl J Med 2016;375:1524-31
【背景】
失神によって入院した患者における肺塞栓症の有病率に関する報告は少なく、こうした患者における肺塞栓症の診断のワークアップに対しては近年のガイドラインはあまり注意を向けていない。
【方法】
イタリア国内、11の施設に初回の失神で入院した患者に肺塞栓症の診断における系統的なワークアップが行なわれた。それらの患者の中には肺塞栓症以外の診断によって失神の説明がつく患者も含まれている。肺塞栓症の診断は、後ほど説明するウェルズスコアを用いた臨床的検査前確立の低地及びDダイマーが陰性であることの両者によって除外診断とさた。全ての患者においてCTでの肺動脈造影検査と換気血流シンチが行なわれた。
【結果】
平均年齢76歳の計560名の患者が試験に登録されました。ウェルズスコアとDダイマーの検査によって、330名で肺塞栓症が除外され、残った230名のうち42.2%の97名で肺塞栓症と診断がついた。コホート全体では肺塞栓症の有病率は17.3%、主肺動脈や葉動脈での血栓の存在や両肺の25%以上での血流欠損の存在が同定されたのは61名であった。失神の原因として他の疾患による説明がついていた患者355名中12.7%にあたる45名で肺塞栓症が同定され、他の診断がついていない患者においては205名中25.4%にあたる52名で肺塞栓症が同定された。
【結論】
肺塞栓症は初回の失神で入院した患者のおよそ6分の1にも当たる割合で肺塞栓症が認められる。
平成28年10月18日(担当:高井)
Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes
NEJM September 16, 2016
【背景】
2型糖尿病の新規治療薬の心血管イベント発症リスクおよび安全性成績については多くの議論がなされてきた。半減期が約1週間程度で、週一回の皮下注射の投与でよい新規GLP(Glucagon-like peptide)-1アナログであるセマグルチドが心血管イベント発生リスクの高い成人2型糖尿病患者にどの程度の影響があるのかについては、現在よくわかっていない。
【方法】
3,297人の心血管イベント発生リスクの高い成人2型糖尿病患者を対象に、セマグルチド0.5 mgおよび 1.0 mgを104週にわたり、標準治療に追加投与し、心血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中のいずれかがが最初に発現するまでの時間を主要複合エンドポイントと設定し、その結果をプラセボ群と比較検討した。
【結果】
対象患者のうち83%の2735人は心血管障害、腎障害のいずれかもしくはその両方をきたした。試験期間中に、セマグルチド使用群の6.6%、プラセボ群の8.9%に主要複合エンドポイントが発生した。(ハザード比 0.74, 95%信頼区間 0.58~0.95, P<0.001)。その詳細は、非致死的心筋梗塞は、セマグルチド使用群で2.9%、プラセボ群で3.9%発生した (ハザード比 0.74, 95%信頼区間 0.51~1.08, P=0.12)。非致死的脳卒中は、セマグルチド使用群で1.6%、プラセボ群で2.7%発生した(ハザード比 0.61, 95%信頼区間 0.38~0.99, P=0.04)。その一方で、心血管死のアウトカムでは、両群とも差はなかった(ハザード比 0.98, 95%信頼区間 0.65~1.48, P=0.92)。また、新規の腎障害、腎障害の悪化は、セマグルチド使用群の方が少なかった。しかし、硝子体出血や失明など、硝子体内治療や光凝固などの治療が必要な状態に陥った、網膜障害の割合は、セマグルチド群の方が有意に高かった(ハザード比 1.76, 95%信頼区間 1.11~2.78, P=0.02)。セマグルチド使用群で重篤な有害事象はほとんど生じなかったが、治療不継続となった患者の主要な原因は、消化器系の有害事象であった。
【結論】
セマグルチドは心血管イベント発生リスクの高い成人2型糖尿病患者の主要な心血管イベントリスクを有意に低下させ、プラセボに対する非劣性を示した。この結果は、セマグルチドがHbA1cや体重、血圧を改善することにより、アテローム性の動脈硬化の進行を防いでいることに起因しているのではないかと考えられた。
平成28年9月27日(担当:吉永)
Rate Control versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac Surgery
N Engl J Med 2016; 374:1911-1921May 19, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1602002
【背景】
心臓手術後の心房細動(af)は死亡率、合併症発症率、入院期間の増加に関連しています。
状態が安定している術後の患者のafに対しては、Rate controlがいいのか?Rhythm controlがいいのか?議論が続いています。
【方法】
心臓手術後に新規にafを発症した患者をRate control 群と Rhythm control群にランダムに振り分けました。
Primary end point はランダム化から60日以内の総入院日数です。
【結果】
2014年5月から2015年5月まで、術前に登録された2109例中、33%の695例が術後afを発症しました。そのうちの523例が振り分けられました。
入院日数に関しては、Rate control 群で中央値 5.1日、 Rhythm control群で5.0日、P値0.76と有意差はありませんでした。
死亡率に関してはP値0.64。 塞栓症、出血といった重篤な有害事象に関しても、Rate control 群で100人月あたり24.8件、 Rhythm control群で100人月あたり26.4件、P値0.61と、両群間に有意差はありませんでした。
それぞれの群の約25%の症例が薬剤無効、アミオダロンの副作用、薬剤有害反応の理由で調査から逸脱しました。
60日の時点で、Rate control 群で93.8%、Rhythm control群で97.9%の症例が洞調律になっていた。(P値 0.02)
退院してから60日の時点まで、afを発症しなかった割合はRate control 群で84.2%、Rhythm control群で86.9%であった。(P値 0.41)
【結語】
術後のafの治療に関して、Rate control 群とRhythm control群では、入院日数、合併症発症率は同等で、60日の時点で持続していたafも少なかった。
いずれの治療法ももう一方に対する臨床的な優越性は認められませんでした。
平成28年9月20日(担当:武田)
Drug-Eluting or Bare-Metal Stents for Coronary Artery Disease
NEJM Aug30, 2016
【背景】
現在広く使用されている薬剤溶出性ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)の、死亡・心筋梗塞・再血行再建・ステント血栓症・QOLに関する長期予後の比較については十分なデータがない。
【方法】
安定狭心症もしくは急性冠症候群にて冠動脈インターベンションを行った9013人の患者をランダムにDESとBMSに割りつけた。DES留置群の96%はEES(エベロリムス溶出性ステント)もしくはZES(ゾタロリムス溶出性ステント)を留置した。1次アウトカムは中央値5年のフォローアップ期間中の全死亡と非致死性心筋梗塞とした。2次アウトカムは再血行再建・ステント血栓症・QOLとした。
【結果】
6年の時点で、DES群は16.6%、BMS群は17.1%のイベントを認めた(P=0.66有意差なし)が、1次アウトカムには有意差を認めなかった。6年の時点での再血行再建については、DES群は16.5%、BMS群は19.8%であった(P<0.001有意差あり)。QOLに関しては2群間で有意差を認めなかった。
【結論】
DES群とBMS群を比較して、全死亡と非致死性心筋梗塞の複合エンドポイントは有意差を認めなかった。再血行再建率はDES群で有意に低かった。
平成28年09月06日(担当:居積)
Ventricular Tachycardia Ablation versus Escalation of Antiarrhythmic Drugs
NEJM July 14, 2016
【背景と目的】
虚血性心筋症(ICM)における心室頻拍(VT)発生率へのアブレーションと薬物治療の効果の比較はVTACH試験やSMASH-VT試験など多くの報告がある。しかしながら「心筋梗塞後に植込み型除細動器(ICD)を植え込んだ患者は、抗不整脈薬療法を行っても、反復性心室頻拍の頻度が高い」というしばしば見受けられる問題について、これを管理するもっとも有効な方法は明らかにされていない。
【方法】
虚血性心筋症で ICD を植え込み、抗不整脈薬を服用しているにもかかわらず心室頻拍を認める患者を対象に、Dalhousie UniversityのSappらは無作為化比較試験を行った。対象を、カテーテルアブレーションを行い、ベースラインの抗不整脈薬投与を継続する群(アブレーション群)と、抗不整脈薬の種類や投与量を増やす群(薬物強化群)に無作為に割り付けた。薬物強化群では、アミオダロン以外の薬剤がすでに投与されている例では、アミオダロンを開始した。アミオダロンが投与されている例では、投与量が 300 mg/日未満の場合は増量し、すでに 300 mg/日以上の場合はメキシレチンを追加した。主要転帰は、死亡、24 時間以内に記録された 3 回以上の心室頻拍発作(心室頻拍ストーム)、適切な ICD ショックの複合とした。
【結果】
259 例を登録し、132 例をアブレーション群に、127 例を薬物強化群に割り付けた。平均(±SD)追跡期間 27.9±17.1 ヵ月のあいだに、主要転帰は、アブレーション群の 59.1%、薬物強化群の 68.5%に発生した(アブレーション群のハザード比 0.72、95%信頼区間 0.53~0.98、P=0.04)。死亡率に群間で有意差は認められなかった。アブレーション群では心穿孔が 2 例、重大な出血が 3 例、薬物強化群では肺毒性による死亡が 2 例、肝機能障害による死亡が 1 例認められた。
【結論】
虚血性心筋症で ICD を植え込み、抗不整脈薬療法を行っても心室頻拍を認める患者では、カテーテルアブレーションを行うほうが、抗不整脈薬療法を強化するより、主要転帰とした死亡、心室頻拍ストーム、適切な ICD ショックの複合発生率が有意に低かったが、 死亡率単体では有意差は認めなかった。
平成28年06月28日(担当:齋藤)
Polyfarmacy and effects of apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation: post hoc analysis of the ARISTOTLE trial
BMJ 2016; 353 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.i2868 (Published 15 June 2016)
Cite this as: BMJ 2016;353:i2868
【目的】
心房細動患者における多剤併用状態のアピキサバンとワルファリンの治療効果に与える影響を検討すること。
【方法】
アリストテレス試験の2015年時点におけるpost hoc解析で、アリストテレス試験に登録された18201例が解析対象。
アリストテレス試験においては、登録患者は5mgのアピキサバンを1日2回服用する群またはINR2-3をターゲットとしたワルファリン群のいずれかに割り付けがされた。今回のpost hoc解析ではさらに併用薬が0-5、6-8、9剤以上の3群に分けられ解析が行われている。追跡期間の中央値は1.8年。
【結果】
併用薬剤数の中央値は6、5剤以上の多剤併用状態の割合は18201名中76.5%にあたる13932例。多剤併用状態は高齢者に多く、女性、国籍はアメリカに多いという結果であった。
併用薬が増えるほど合併症は増加し、抗凝固薬と相互作用をもつ薬剤を内服している患者の割合も増加していた。
多剤併用状態では、脳卒中、全身性塞栓症、大出血の割合も同様に増加していた。
アピキサバンにおいて併用薬剤数が増加した際の大出血の増加が統計学的にわずかに少なかった。
相互作用をもつ薬剤を内服している患者における臨床アウトカム、治療効果はアピキサバンとワルファリンで同等であった。
【結論】
アリストテレス試験において、75%が多剤併用状態であり、このサブグループにおいては合併症の増加、相互作用をもつ薬剤の増加、死亡率、塞栓症、出欠合併症の増加が認められた。アピキサバンの方が少なくとも安全性の面においてはワルファリンと比較してより弊害が少なかった。
平成28年05月31日(担当:吉永)
Coronary-Artery Bypass surgery in Patients with Ischemic Cardiomyopathy.
N Engl J Med 2016; 374:1511-1520April 21, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1602001
【背景】
冠動脈疾患、心不全、重症左室収縮機能不全の患者において、ガイドラインに基づいた薬物療法とCABGは、薬物療法単独と比較した場合、生存率を向上させるか不明であった。
【方法】
2002年7月から2007年5月に、EF 35%以下でCABG可能な冠動脈疾患を有する1212例が対象であった。
610例が薬物療法およびCABG群(CABG群)に、602例が薬物療法単独群に振り分けられた。
Primary outcomeは全ての死亡で、Secondary outcomeは心血管関連死、全ての死亡または心血管関連の入院であった。
フォローアップ期間の中央値は、9.8年であった。
【結果】
Primary outcomeの発生に関しては、CABG群で359例(58.9%)、薬物療法単独群で398例(66.1%)、hazard ratio 0.84 P値 0.02とCABG群で有意に低かった。
Secondary outcomeの心血管関連死に関しても、CABG群で247例(40.5%)、薬物療法単独群で297例(49.3%)、hazard ratio 0.79 P値 0.006とCABG群で有意に低かった。
全ての死亡または心血管関連の入院に関しても、CABG群で467例(76.6%)、薬物療法単独群で524例(87%)、hazard ratio 0.72 P値 0.001未満とCABG群で有意に低かった。
【結語】
10年間という期間では、虚血性心筋症の患者において、薬物療法およびCABGを施行された患者は、薬物療法のみを施行された患者と比較して、全ての死亡、心血管関連死、全ての死亡または心血管関連の入院といったイベントの発生率が有意に低かった。
平成28年05月24日(担当:武田)
Body-Mass Index in 2.3 Million Adolescents and Cardiovascular Death in Adulthood.
G Twig et al.
N Engl J Med. 2016 Apr 13. [Epub ahead of print]
【背景】
未成年期の肥満が成人期の心血管リスクを増すというデータが増えている。著者らは、1967-2010年のイスラエル人青年(平均年齢17.3 歳, n=2298130)のBMIデータの後ろ向き解析により、青年後期のBMIと成人期の心血管関連死 (冠動脈疾患死、脳卒中死、突然死)との関連を検討した。
【結果】
追跡期間の42,297,007人年中、全死亡の9.1%が心血管死だった。いままでBMI正常範囲内と考えられていた、BMI 100分位50-74パーセンタイル群での心血管関連死・全死亡の増加が観察され、多要因調整後、対照群(5-24パーセンタイル群)と比較して肥満群(≧95パーセンタイル群)のハザード比は冠疾患死4.9・脳卒中死2.6・突然死2.1であり、それらを統合した心血管死では3.5だった。また同BMI群において、心血管死の
ハザード比は追跡期間1-10年の2.0から追跡間30-40年に4.1へ増加していた。
【結論】
許容可能範囲と考えられていたBMI 50-74パーセンタイル群の未成年でも、
40年の観察期間内で心血管死、全死亡が増加していた。
平成28年05月17日(担当:林)
Shared Genetic Predisposition in Peripartum and Dilated Cardiomyopathies
N Engl J Med 2016; 374:233-241January 21, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1505517
【背景】
周産期心筋症の臨床像は,特発性拡張型心筋症と一部共通している。特発性拡張型心筋症は、サルコメア蛋白タイチンをコードする TTN をはじめとする、40 を超える遺伝子の変異によって引き起こされる疾患である。
【方法】
周産期心筋症女性患者 172 例において、拡張型心筋症との関連が示されている変異体を有する 43 遺伝子の塩基配列を決定した。これらの患者におけるタイプの異なる変異体(ナンセンス,フレームシフト,スプライシング)の保有率と、拡張型心筋症患者および対照集団におけるこれらの変異体の保有率とを比較した。
【結果】
周産期心筋症女性患者において、8 遺伝子で、特異かつまれな短縮型変異体が 26 個同定された。
短縮型変異体の保有率(172 例中 26 例 [15%])は、60,706 例の対照集団での保有率(4.7%)よりも有意に高かったが(P=1.3×10-7=0.00000013)、拡張型心筋症患者コホートでの保有率(332 例中 55 例 [17%])とは同程度であった(P=0.81)。
同定された短縮型変異体の 2/3(26個中17個) は TTN に認められ、周産期心筋症患者での保有率は 10%、対照集団での保有率は 1.4%であった(P=2.7×10-10)。
ほぼすべての TTN 変異体は,タイチンの A 帯に位置していた。
TTN 短縮型変異体のうち 7 個は、特発性拡張型心筋症患者ですでに報告されているものであった。
周産期心筋症患者のうち,臨床的な特徴が十分に明らかにされている 83 例のサブグループでは、TTN 短縮型変異体の存在は、追跡 1 年の時点における駆出率がより低いことと有意に関連した(P=0.005)。
【結論】
周産期心筋症女性患者の大規模集団における短縮型変異体の分布は、特発性拡張型心筋症患者集団における分布と著しく類似していた。
TTN 短縮型変異体は、それぞれの疾患で、もっとも多く認められた遺伝的素因であった。
平成28年4月26日(担当:齊藤)
Aliskiren, Enalapril, or Aliskiren and Enalapril in Heart Failure.
N Engl J Med. 2016 Apr 21;374(16):1521-32. doi: 10.1056/NEJMoa1514859. Epub 2016 Apr 4.
【背景】
慢性心不全患者においてACE阻害薬が死亡及び入院の発生を減少させることが知られているが、そのような患者においてレニン阻害薬がどのような役割を果たすかについてはまだ知られていない。
【方法】
試験では2009年3月13日~13年12月26日に、43ヵ国789施設から8,835例が登録された。単盲検の導入期間後、二重盲検法にて、3群(エナラプリル1日2回5または10mg投与群、アリスキレン1日1回300mg投与群、両薬併用群)のいずれかに無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、心血管死・心不全入院の複合アウトカムとした。
【結果】
中央値で36.6ヵ月後、主要複合アウトカムの発生は、併用群770例(32.9%)、エナラプリル単独群808例(34.6%)であった(HR:0.93、95%CI:0.85-1.03)。また、アリスキレン単独群では791例(33.8%)で(エナラプリル単独との比較でHR:0.99、95%CI:0.90-1.10)、事前に設定した非劣性検定の基準を満たさなかった。
また、併用群では、エナラプリル単独群と比較して低血圧(13.8% vs.11.0%、p=0.005)。血清クレアチニン値の上昇(4.1% vs.2.7%、p=0.009)、高カリウム血症(17.1% vs.12.5%、p<0.001)といった有害事象の発生が増加していた。
【結語】
慢性心不全患者に対して、エナラプリルに加えてアリスキレンの併用は有害事象の増加と関連し、ベネフィットの増加へはつながらなかった。また、アリスキレンのエナラプリルに対する非劣性も示されなかった。
平成28年04月12日(担当:高田)
Amiodarone, Lidocaine, or Placebo in Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
This article was published on April 4, 2016, at NEJM.org.
DOI:10.1056/NEJMoa1514204
【背景】
抗不整脈薬はショック抵抗性のVFやVTに使用されるが、その利益については未だ証明されていない。
【方法】
ランダム化ダブルブラインド試験において、非経口のアミオダロン、リドカイン、生食のプラセボを比較した。患者は通常の治療をされ、非外傷性の院外心停止患者で、少なくとも一度ショックをかけた後のショック抵抗性VF、pulseless VTを伴っていた患者とした。救急隊は北アメリカ10施設とした。主要outcomeは生存退院、二次outcomeは退院時の適切な神経機能。Criteriaに適合し、どのような容量のVF、pulseless VT対する薬物でも投与された患者全てを対象とした。
【結果】
Per-protocolの対象患者3026が、アミオダロン群974人、リドカイン群993人、プラセボ群1059人に割り付けられ、このうち、それぞれ24.4%、23.7%、21.0%が生存退院した。生存退院については、アミオダロンとプラセボの差は3.2%(P=0.08)、リドカインとプラセボでは2.6%(P=0.16)、アミオダロンとリドカインでは0.7%(P=0.16)であった。神経機能の結果でも3群の結果に差異はみとめられなかった。差がみとめられたのは目撃者がいる場合であった。目撃者がいた場合には、薬物を使用した場合にプラセボ群に比較して有意に薬物使用群で生存退院率が高かったが、目撃者がいない場合には差異はみとめられなかった。アミオダロン群では、リドカイン群、プラセボ群に比較して、一時pacingを要する割合が高かった。
【結果】
アミオダロンもリドカインも、院外心停止しショック抵抗性のVF、pulseless VTに対してプラセボに比較して、生存退院も退院時の神経機能も改善することはなかった。
平成28年3月22日(担当:吉永)
Characteristics and long-term outcomes of contemporary patients with bicuspid aortic valves
J Thorac Cardiovasc Surg. 2015 Dec 19. pii: S0022-5223(15)02513-1.
doi:10.1016/j.jtcvs.2015.12.019.
【背景】
大動脈弁疾患や大動脈疾患を有する二尖弁の患者に対して行われた手術の長期成績を調査することであった。
【方法】
2003年~2007年に二尖弁と認められた1890例の患者(平均年齢50±14歳、75%が男性)が対象で、エンドポイントは、死亡とA型解離であった。
【結果】
一平均のEFは55%±8%で、二尖弁患者の31%にⅢ度以上のAR、17%に30mmHg以上の平均大動脈―左室圧較差、35%に4cm以上の大動脈基部拡大、42%に4cm以上の上行大動脈拡大を認めた。
8.1±2年で、二尖弁患者のうち918例(49%)が手術を施行された。883例が大動脈弁置換術もしくは形成術(CABGなどの複合手術あり)、471例が上行大動脈人工血管置換術(30例が単独上行大動脈人工血管置換術)を施行された。
二尖弁患者のうち171例(9%)にイベントが発生した。169例が死亡。2例がA型解離であった(30日以内の手術死亡は0.4%)。
多変量Cox生存解析では、年齢の増加、大動脈基部の拡大、EFの低下、脂質異常が、イベントの発生により高い関連性を示していた。
また、二尖弁に対する手術は、イベントの発生を有意に低下させたという結果であった。
【結語】
二尖弁の患者は、大動脈弁の機能障害や大動脈疾患を多く有していた。
二尖弁に対する手術は、死亡や解離の発生を有意に低下させた。
平成28年3月1日(担当:武田)
Isosorbide Mononitrate in Heart Failure with Preserved Ejection Fraction
N Engl J Med 2015; 373:2314-2324 December 10, 2015
【背景】
硝酸薬は収縮保持性心不全患者に対し、日常の活動性を高めるために処方されることが多いが、その効果は実証されていない。本研究では収縮保持性心不全患者の日常生活活動に対する一硝酸イソソルビド(ISMN群)とプラセボ(P群)の効果を比較した。
【方法】
多施設共同二重盲検クロスオーバー試験で、収縮保持性心不全患者110例を、6週間でISMNの用量を漸増するレジメン(30mg/日から開始し、60mg/日、120mg/日に増量)または6週間のプラセボ投与群に割り付け、その後もう一方の群にクロスオーバーして6週間投与とした。一時エンドポイントは120mg投与期間の活動量とし、患者に装着した活動計で測定した1日の活動単位の平均として数値化した。二次エンドポイントは120mg投与期間における1日あたりの活動時間、全用量の投与期間を通じて活動計で測定した1日の活動単位、QOLスコア、6分間歩行距離、NT-proBNP値とした。
【結果】
ISMN 120mg投与群では、P群と比較して、活動量が有意ではないものの少ない傾向にあり、1日あたりの活動時間は有意に減少した。3用量の投与期間を通じて、ISMN群の活動量はP群よりも少なかった。活動量はISMNを増加させるほど、有意に低下した。6分間歩行距離、QOLスコア、NT-proBNP値に有意差は認められなかった。
【結論】
収縮保持性心不全患者にはISMNを投与しても活動量、QOL、6分間歩行、NT-proBNP値に改善は認めなかった。
平成28年2月16日(担当:高田)
Clinical outcomes in patients with ST-segment elevationmyocardial infarction treated with everolimus-elutingstents versus bare-metal stents
(EXAMINATION): 5-yearresults of a randomised trial Lancet 2016; 387: 357–66
【背景】
新世代の薬剤溶出性ステントの、STEMIに対する効果と安全性については未だ情報が少ない。EXAMINATION trialでは、EESとBMSをSTEMI患者で比較した試験である。今回は5年の観察期間での結果を報告する。
【方法】
EXAMINATION trialは、イタリア、スペイン、オランダで行われた多施設共同試験であり、STEMI患者をEESとBMSに1:1で割り付けした。ランダム化は中央で管理し、電話での回答でランダム化した。患者にはステントの種類はblindとした。Outcomeは5年観察期間での、全死亡・MI・再治療の複合endpointとし、解析はintention to treat法で行った。
【結果】
1498人が登録され、EES群751名、BMS群747名であった。5年経過時点で、主要end pointはEES群で21%の159名、BMS群で26%の192名にみとめた。この差は全死亡の差が大きく影響していた。
結論:今回の結果から、EESは生体吸収性ステントとも比較する必要があるだろう。
平成28年2月2日(担当:兼光)
A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control
N Engl J Med 2015;373:2103-16.
【背景】
非糖尿病患者の心血管病の発生率や死亡率を減らすために最も適切な収縮期血圧の目標ははっきりしていない。
【方法】
収縮期血圧130mmHg以上で、心血管リスクが高いが糖尿病ではない9361人を無作為に収縮期血圧の降圧目標を120mmHg以下とする群(強化治療群)と140mmHg以下とする群(標準治療群)に割り付けた。
主要複合転帰は心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管死とした。
【結果】
一年時点で平均収縮期血圧は強化治療群121.4mmHg、標準治療群136.2mmHgであった。介入は一次複合転帰が強化治療群において有意に少ないために中央値3.26年の期間で早期に中止された。また、全死亡率も強化治療群で有意に低かった。有害イベントは低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害(腎不全)の発生は強化治療群で多かった。
【結論】
糖尿病ではないが心血管イベントのリスクが高い患者において、収縮期血圧の降圧目標を120mmHg以下とする場合は、140mmHg以下の場合と比較すると致死性、非致死性主要心血管イベントや全死亡の発生は少なかった。しかし、強化治療群ではいくつかの有害イベントの発生が有意に多かった。
平成28年1月12日(担当:山田)
Effect of Availability of Transcatheter Aortic-Valve Replacement on Clinical Practice
The New England Journal of Medicine December 17, 2015 Vol.373 No.25.
【背景】
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)が導入されてから,その臨床診療に対する影響は,現在標準治療と考えられている外科的大動脈弁置換術と比較してどうかという疑問が提起されている.完全な全国データは,新しい技術の導入がこれまでの臨床基準にどのような影響を及ぼすかを検討するにあたって有用である.
【方法】
ドイツで,2007~13 年に単独で実施されたすべての TAVR および外科的大動脈弁置換術について,患者背景と院内転帰に関するデータを解析した.
【結果】
全体で,TAVR は 32,581 件,外科的大動脈弁置換術は 55,992 件実施された.TAVR の件数は,2007 年には 144 件であったが,2013 年には 9,147 件に増加した.一方,外科的大動脈弁置換術の件数は 8,622 件から 7,048 件へとわずかに減少した.TAVR を受けた患者は外科的大動脈弁置換術を受けた患者よりも年齢が高く(年齢の平均 [±SD] 81.0±6.1 歳 対 70.2±10.0 歳),術前リスクが高かった(推定ロジスティック EuroSCORE [欧州心臓手術リスク評価システム] 22.4% 対 6.3% [0~100%の評価尺度でスコアが高いほどリスクが高く,スコア 20%以上で手術リスクが高いことを示す]).院内死亡率は両群とも 2007 年から 2013 年にかけて低下した(TAVR 群では 13.2%から 5.4%へと低下し,外科的大動脈弁置換術群では 3.8%から 2.2%へと低下).脳卒中,出血,ペースメーカー植込みの発生率も低下した(急性腎障害は該当せず).
【結論】
ドイツでは,TAVR の施行は 2007 年から 2013 年にかけて大幅に増加したが,それに伴う外科的大動脈弁置換術の減少はわずかであった.TAVR を受けた患者は外科的大動脈弁置換術を受けた患者よりも年齢が高く,手術リスクが高かった.院内死亡率は両群とも低下したが,TAVR 群のほうが低下が大きかった.(フライブルク大学心臓センターから研究助成を受けた.)
平成27年12月8日(担当:吉永)
Characteristics and Survival of Malignant Cardiac Tumors : A 40-Year Analysis of Over 500 Patients
Circulation.2015 Oct 14. pii: CIRCULATIONAHA.115.016418.
【背景】
原発性心臓悪性腫瘍の発生、病理組織、人口統計、生存を調査することであった。
【方法と結果】
1973年~2011年にSurveillance , Epidemiology and End-Results(SEER)に登録された悪性腫瘍のうち、心臓悪性腫瘍と診断された症例を解析していた。
SEERに登録された悪性腫瘍患者 7384580例のうち、0.008%の551例が原発性心臓悪性腫瘍であった。
発生率は人口1億人に対し、34例で、1973年~1989年は、25.1例、1990年~1999年は、30.2例、2000年~2011年は、46.6例と時代とともに増加傾向にあった。
54.1%が女性、78.6%が白人、中央年齢は50歳であった。
肉腫が64.8%の357例、リンパ腫が27%の150例、中皮腫が8%の44例であった。
化学療法に関する詳細は不明だが、19%の症例で放射線療法、44%の症例で手術を施行されていた。
フォローの期間の中央値は80ヶ月で、413例の症例が死亡。
全体の1年生存率は46%、3年生存率は22%、5年生存率は17%であった。
1973年から1989年では、1年生存率は32%、3年生存率は17%、5年生存率は14%、2000年から2011年では、1年生存率は50%、3年生存率は24%、5年生存率は19%と時代とともに改善していた。
肉腫と中皮腫は、リンパ腫と比較すると予後不良で、肉腫の1年生存率は47%、3年生存率は16%、5年生存率は11%、中皮腫の1年生存率は51%、3年生存率は26%、5年生存率は23%、リンパ腫の1年生存率は59%、3年生存率は41%、5年生存率は34%であった。
原発性心臓リンパ腫と肉腫は、心臓外原発のリンパ腫と肉腫と比較すると、年齢が若く、生存率も低いという結果であった。
【結語】
原発性心臓悪性腫瘍はまれな疾患で、診断も困難。過去50年間で、発生率や生存率も増加していた。
心臓外の原発性悪性腫瘍と比較すると、病理組織学的には同じでも、原発性心臓悪性腫瘍は年齢が若く、生存率も低かった。