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疾患について

心房細動

心不全症例の中に、心臓の収縮のずれが生じ、心臓の拍出の効率が低下している場合があります。両心室ペーシンング治療とは、左右の心室からペーシングすることにより、心臓収縮のずれを改善し、心臓の拍出の増加し心不全を改善させる治療です。現在の適応としては、労作時の息切れ、体のむくみなどの心不全症状があり、明らかな心臓の収縮のずれが認められる症例となります。

心房細動とは

心房細動はポンプとして働く心臓のうち、心房の中で生じた異常な電気的興奮により起こり、まるで痙攣したように心房が不規則に震える状態になります。心房細動は加齢に伴う不整脈であり、超高齢社会がすすんでいる本邦でも年々罹患率は増加しており、現在80万人以上が罹患していると推定されています。心房細動の問題点は、①症状(動悸、息切れ、めまい)にくわえ、②合併症としての脳梗塞、心不全があります。また最近では、認知症との関連も報告されています。

心房細動の原因

心房細動発生には、心房のある場所からの繰り返しの単発の不整脈(期外収縮)発生が関与していることが知られています。単発の不整脈の発生場所として、最も頻度が高い場所が肺静脈という血管であることがわかっております。

心房細動病態・原因

心房細動の治療

治療としては、発作を抑制し正常なリズムの維持をめざすリズムコントロールと心房細動の心拍数を調整する心拍コントロールがあります。前者には薬物療法に加え、心房細動の起源を治療し根治を目指すカテーテルアブレーションがあります。

① 薬物療法
心房細動発作の抑制を目的とする薬物と発作時の脈拍を抑え症状を緩和する薬物の2種類があります。薬物療法は心房細動の根治療法でなく、前者の薬物治療も心房細動の進行とともに、効果がなくなり、正常なリズムの維持ができなくなっていくことが知られています。

② カテーテルアブレーション治療
カテーテルを使用して、心房細動のきっかけとなる不整脈(期外収縮)を治療し、心房細動の根治を目指す方法です。具体的にはきっかけとなる不整脈の発生場所として一番可能性が高い肺静脈と心房の電気的なつながりを遮断する肺静脈隔離術が行われます。隔離の方法として、肺静脈周囲をカテーテルで焼灼する方法とバルーンで隔離する方法(当院では冷凍バルーンを使用)があります。現在、カテーテルアブレーションは薬物療法に比し、治療の有効性が高いことが証明され、心房細動の状態により適応のある方には積極的に行われるようになってきております。

③ 心房細動の合併症予防の治療
心房細動の重篤な合併症である血栓塞栓症の予防には、飲み薬による抗凝固療法が行われます。

心房細動カテーテルアブレーション

ブルガダ症候群

ブルガダ症候群とは

生来健康な若年・中高年の突然死に関連する致死的不整脈(特発性心室細動)をきたす疾患です。本邦では、夜間の突然死として知られている“ポックリ病”の主要な原因の一つであると考えられています。

診断

診断および治療の必要性を評価するポイントとしては、下記があります。 1. 特徴的心電図所見(ブルガダ型心電図)(図) 2. 器質的心疾患の有無 3.突然死の家族歴 4.原因不明の失神 5. 致死的不整脈の発生(心室細動)

治療

致死的不整脈発生のリスクが高い症例に対する植込み型除細動器(ICD)植え込みが唯一確立された治療となります。


植込み除細動器(ICD)

失神

失神とは?

脳全体が一時的な低灌流状態に陥ることで脳機能が維持できなくなり意識を失って倒れ、比較的短時間に完全に意識が回復する病態のことです。

失神の原因は?

失神の原因は多くありますが、その病態により下記の3つに分類されます(表1)。

① 反射性失神
② 起立性低血圧
③ 心原性失神

①、②は自律神経や血圧の変動などによる調節機構の反射が関係し、その後の寿命に影響のない危険性が低い失神と考えられ、多くの失神がこれらに属します。一方、③は心臓の病気(特に不整脈)が原因でおこり、突然死につながる危険性が高い失神であり、その鑑別が重要となります。各失神の頻度に関しては、本邦におけるSuzukiらの報告によると、救急外来を受診した715名の失神患者の内訳では、状況失神が最も多く4割弱、心原性は1割を占め、また3割は原因が特定できなかったとされています(表2)。

表1. 失神の原因

反射性失神
①血管迷走神経性失神
・感情ストレス(恐怖、疼痛、採血など)
・起立不可
②状況失神
・咳嗽、くしゃみ
・消化器系(嚥下、排便、内臓痛)
・排尿(排尿後)
・運動後
・食後
・その他(笑う、金管楽器吹奏、重量挙げ)
③頸動脈洞症候群
④非定型(明確な誘引がない、発症が非定型)
起立性低血圧
①自律神経障害
・原発性(純型自律神経失調症、Parkinson病など)
・続発性(糖尿病、アミロイドーシス、脊髄損傷など)
②薬剤性
・アルコール、血管拡張薬、利尿剤、抗うつ薬など
③循環血液量減少
・出血、下痢、嘔吐など
心原性(心血管性)失神
①不整脈
・徐脈性(洞不全症候群、房室ブロックなど)
・頻脈性(上室性、心室性)
②器質的疾患
・心疾患(急性心筋梗塞、肥大型心筋症、心臓腫瘍、心膜疾患)
・その他(肺塞栓症、急性大動脈解離、肺高血圧症)

表2. 各失神の頻度

失神の原因(救急外来受診患者)
反射性失神 37%
起立性低血圧 21%
心原性 10%
不明 32%

また失神と区別される脳全体の低灌流を伴わない意識障害を来たす病態もあり(表3)、失神との鑑別が必要となります。

表3. 失神と鑑別を要する意識障害

失神と鑑別を要する意識障害の原因
①意識障害を来たすが、脳全体の低灌流を伴わないもの
・てんかん
・代謝性疾患(低血糖、低酸素血症など)
・中毒
・椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作
②意識消失を伴わないもの
・脱力発作
・転倒発作
・転倒発作
・機能性(心因性)
・頸動脈起源の一過性脳虚血発作

失神の特徴

反射性失神:
多くはある特殊な状況でおこる場合が多く(暑さを我慢していた、長時間の立位など)、吐き気、腹痛や気分不快などの前兆をしばしばともないます。また失神から回復後も気分不快などが遷延することが多くあります。

心原性失神:
前兆なく一気に目の前が暗くなるなど、瞬時に意識を完全に失う(失いそうになる)のが特徴です。また持続時間は短時間で通常は数秒から10数秒で、30秒を超えることはまれです。

失神の診断

失神の診断の場合、危険性の高い心原性失神の鑑別が重要となります。

① 問診:失神の状況確認
② 採血、尿検査:電解質、血糖などの異常の確認
③ 心電図、胸部レントゲン写真、心エコー:基礎心疾患の確認
④ 24時間ホルター心電図:長時間の心電図記録
⑤ 長期間イベントレコーダ(2-3週間記録):
⑥ Head up tilt試験(立位負荷試験):反射性失神の鑑別
⑦ 植込み型心電計(心電用ループレコーダ):長期間心電図記録(2-3年)が可能な植込み型記録計の植え込み(診断後、抜去可能)(図)
⑧ 心臓カテーテル検査・臨床電気生理学的検査(不整脈のカテーテル検査)

この他、失神と鑑別を有するてんかんなど脳の疾患に関して、必要時、脳神経外科・内科で精査を行います。

失神の治療

反射性失神に対してはチルトトレーニングと呼ばれる立位訓練や生活指導が中心となります。心原性失神に対しては薬物療法の他、植込み型デバイス治療(ペースメーカ、植込み型除細動器)やカテーテル治療など、患者様の病態に応じて検討しています。

植込み型心電用ループレコーダ

参考文献

1)日本循環器学会ガイドライン 2012 失神の診断・治療

2)Suzuki M, Hori S, Nakamura I, et al. Long-term survival of Japanese patients transported to an emergency department because of syncope. Ann Emerg Med 2004; 44: 215-221.