国際医療福祉大学病院 神経難病センター

活動報告2004~2006

 

国際医療福祉大学病院 神経内科

加藤宏之 橋本律夫 小川朋子 齋藤龍史

 


はじめに

 

 国際医療福祉大学病院(2007年2月、国際医療福祉病院より改称)では、2003年6月より、神経難病センター24床が稼動しています。神経難病センターを担当する診療科は神経内科です。当初は、多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、ウィリス動脈輪閉塞症、シャイ・ドレーガー症候群、クロイツフェルト・ヤコブ病、を対象として出発しました。現在では、疾患分類が一部変更されたため、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、シャイ・ドレーガー症候群の3疾患は、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病)、および、多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)に分類されています。

 

神経難病センターの病床は、一般病床では満たし得ない、神経難病の患者様に特化した診療機能を有しています。神経難病は、原因が不明で、症状が進行性で、患者様は肢体の不自由を余儀なくされ、人工呼吸器を装着したり、胃瘻を造設するなど、常にケアとサポートを必要とします。そのため、当センターは、@神経内科医による専門的医療の提供、A入院・在宅における医療環境の整備、B医療面・生活面でのきめ細やかな支援、C必要時の入院病床の確保、を設立の目的としています。

 

 

当院の位置づけ

 

当院は那須塩原市の中では旧西那須野町でただひとつの総合病院(急性期病院)であるばかりでなく、栃木県北医療圏において数少ない神経難病医療を専門とする病院です。栃木県の高度先進医療を担当する自治医科大学病院や獨協医科大学病院までは車で1〜2時間かかるため、これらの大学病院に通院するのは困難な神経難病の患者様も少なくありません。以上の事情から、当院の神経難病センターでは、神経難病を初期診断のための精査入院、初期の外来治療、中期以降の在宅療養とショートステイ入院、合併症治療のための入院や人工呼吸器装着や胃瘻造設のための入院、さらに、長期入院医療から終末期医療まですべての神経難病医療を一貫して地域で提供することを目指しています(図1)。

 

 

Fig1

 

図1 一貫した医療:神経難病多機能病院

 

また、当院は国際医療福祉大学というコメディカル・スタッフ育成のための大学の付属病院ですので、コメディカル・スタッフの参加が容易に実現できる環境にあります。ちなみに、大田原市にある当大学の学部学科は、薬学部(薬学科)、医療福祉学部(医療経営管理学科、医療福祉学科)、保健医療学部(看護学科、理学療法学科、作業療法学科、言語聴覚学科、視機能療法学科、放射線・情報科学科)の3学部9学科です。さらに、国際医療福祉大学病院と同一敷地内に、介護老人保健施設マロニエ苑と、にしなすの総合在宅ケアセンター(訪問看護ステーション、ホームヘルパーステーション、通所介護・通所リハビリテーション)があります。

 

神経難病は、治療法が確立されず、病気の治癒が望めないことが多いので、医療に加えて介護や療養のために、医師や看護師ばかりでなく、リハビリテーション・スタッフや医療ソーシャルワーカーなど多くの病院スタッフ、さらに、ケアマネージャーや訪問看護スタッフなど在宅療養を支援するスタッフの参加も大変重要です。当院では、これらのスタッフをすべて同一グループ内において確保できるため、緊密な連携のもとに強力なチーム医療を推進できることが大きな特徴です。

 

また、神経難病医療は、福祉、行政を含めた幅広い支援を必要とします。当院は栃木県難病医療連絡協議会(いわゆる神経難病ネットワーク)の協力病院のひとつに指定されており、栃木県北における神経難病医療の中心的存在を目指しています。

 

 

診療体制

 

 神経難病センターは、個室12床、4人部屋12床の計24床からなっています。神経内科の常勤医師4名(2005年4月までは3名)が担当し、すべて日本神経学会が認定する専門医です。総回診は毎週月曜日に行われ、医師4名と看護師1名、薬剤師1名が参加します。入院時には、担当の主治医、看護師のほか、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、医療ソーシャルワーカー(MSW)の担当者も患者様ごとに決定されます。毎週火曜日の夕方に神経難病カンファレンスが開催され、医師、看護師、PT、OT、ST、MSW、ケアマネージャー、訪問看護師、訪問リハ・スタッフが参加し、入院中の患者様ばかりでなく、在宅療養中の患者様の病状と治療方針について討論されます。

 

外来は月曜日から土曜日まで週6日開かれている神経内科外来枠で担当するほか、週1回、月曜日の午後に神経難病患者さまの往診(担当小川医師)を行っています。在宅療養の患者様のためには、介護者の確保のため、家族、訪問看護師、ヘルパーとのケアチームを作ります。介護保険制度などの福祉サービスを利用するために、ケアマネージャーがケアプランを作成し、通所サービス、あるいは、訪問診療(往診)、訪問看護、訪問リハを手配します。さらに、人工呼吸器を装着しているなど介護度の高い患者様には、レスパイトのためのショートステイ入院を定期的に組み入れます。在宅療養中の患者様には、安心して在宅で療養できるように、緊急時には24時間体制で病院への受け入れを約束し、そのための診療カードを携帯させています。

 

 

入院患者数

 

 神経内科は、神経難病ばかりではなく、急性期脳卒中を含めて神経内科疾患全般を担当しています。神経内科の全退院患者数における神経難病の患者様の割合は、2004年は242名中119名(49%)、2005年は296名中158名(53%)、2006年は340名中185名(54%)と約半数を占めています(図2)。

 

 

 

 

Fig2

 

 神経難病センターにおける神経難病の退院患者数を表1に示しました。入院の目的は、精査・診断目的、神経難病の治療目的、合併症の治療目的、あるいは、レスパイト入院など様々で、いろいろなステージの患者様が含まれています。また、定期的なショートステイ入院などで、同一の患者様が複数回入院することも少なくありません。

 

表1には、延べ入院患者数をまず示し、さらに、カッコ内には患者実数を示しました。疾患の略号は以下の通りです。ALS:筋萎縮性側索硬化症、MSA:多系統萎縮症、SCD:脊髄小脳変性症、PD:パーキンソン病、PSP:進行性核上性麻痺、MS:多発性硬化症、MG:重症筋無力症。なお、これ以外の神経難病、すなわち、スモン、ハンチントン舞踏病、ウィリス動脈輪閉塞症、クロイツフェルト・ヤコブ病の患者様の入院はありませんでした。

 

当院では、圧倒的に神経変性疾患、特に、ALS、MSA、PDの患者様の入院が多いことがわかります。

 

表1 神経難病退院患者数

 

 

ALS

MSA

SCD

PD

PSP

MS

MG

2004

40 (16)

31 (11)

1 (1)

27 (18)

8 (1)

9 (1)

3 (2)

2005

65 (17)

33 (9)

14 (7)

24 (10)

13 (4)

7 (1)

2 (2)

2006

58 (18)

60 (13)

16 (8)

22 (11)

15 (5)

12 (2)

2 (2)

163 (23)

124 (19)

31 (11)

73 (29)

36 (6)

28 (2)

7 (6)

 

 

 比較のために2005年の栃木県における特定疾患交付件数を示しました。当院では、20名前後のALSとMSAの患者様が入院されていますので、栃木県のALS,MSAの患者様の約2割が当院に集まっていることになります。これは、栃木県北のALS,MSAの患者様のほぼ全例にあたります。これに対して、MSやMGなどの患者様は極端に少なく、当院の神経難病センターでは、長期の在宅療養や入院治療を必要とする変性疾患、特に、ALS、MSAやPDの患者様が集中しております。

 

表2 栃木県の特定疾患交付件数(平成17年)

 

ALS

MSA

SCD

PD

MS

MG

96

111

280

1102

118

212

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 

 ALSは、四肢の筋力低下のため、進行すると車椅子移動からベッド上生活になり、さらに、生命に関わる症状として、呼吸筋麻痺による呼吸不全と球麻痺による嚥下障害があります。後者は、栄養障害、誤嚥性肺炎、コミニュケーション障害の原因となります。呼吸不全に対しては、人工呼吸器装着が選択されますが、非侵襲的呼吸補助(NIPPV)と気管切開による呼吸補助(TPPV)があります。長期的に確実な呼吸補助が可能なのは後者です。嚥下障害に対する経管栄養は、従来は経鼻経管栄養が用いられましたが、現在では経皮的内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が主流です。症例によっては、喉頭摘出術や経皮経食道胃管挿入術(PTEG)が選択されることもあります。意思伝達装置には、古典的な文字盤の使用のほか、トーキングエイドや伝の心などが用いられています。

 

 

ALS患者の呼吸・栄養管理

 

 この3年間に当院に入院した計23名のALSの患者様の呼吸管理と栄養管理は表3の通りでした。この3年間に当センターに入院した23名のALSの患者様の中の8名が亡くなられています。

人工呼吸器を装着した患者様は8名(うち1名死亡)、人工呼吸器の装着を前提に気切または喉頭摘出術を受けた患者様がそれぞれ1名、気切は受けたが人工呼吸器装着を希望しない患者様1名、人工呼吸器を希望したが装着に至る前に死亡した患者様1名、人工呼吸器を希望しない患者様9名(うち6名死亡)、未定の患者2名です。人工呼吸器を希望しない患者様の死亡率は3年間という短期の観察期間では明らかに高くなっており、死因は肺炎や呼吸不全などです。未定の2名を除くと、人工呼吸器を装着、あるいは、装着を希望する患者様は21名中11名(52%)と約半数となっています。

栄養管理では、PEGまたはPTEGを造設した患者様17名、喉頭摘出後で経口摂取可能な患者様1名、PEGの希望あり1名、PEGの希望なし1名、未定2名でした。PEG、その他何らかの栄養管理のための処置の希望者は未定の2名を除く21名中20名(95%)となり、PEGなどの受容率はきわめて高くなっています。

 

 

表3 ALS患者23名の呼吸管理と栄養管理

 

呼吸管理

栄養管理

生存

死亡

呼吸器(気切)

PEG

6

1

呼吸器(喉摘)

経口

1

 

気切(呼吸器希望)

PEG

1

 

喉摘(呼吸器希望)

PEG

1

 

気切(希望なし)

PEG

1

 

希望なし

PEG

1

5

希望なし

PTEG

1

 

希望あり

希望あり

 

1

希望なし

希望なし

1

1

未定

未定

2

 

 

 

多系統萎縮症(MSA)

 

Watanabeらの本邦のMSA230例の報告によると、MSA−C 67%、MSA−P 33%、歩行介助まで平均3年、車椅子まで平均5年、ベッド上生活まで平均8年、死亡まで平均9年となっています。MSAは突然死することがあることが知られていますが、その原因として、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、声帯外転麻痺、脆弱喉頭(奇異性運動)、呼吸中枢障害、呼吸化学感受性障害、などの呼吸障害が挙げられています。

われわれはMSAの患者様の呼吸・嚥下評価のために、簡易型終夜睡眠ポリグラフィー検査や、耳鼻科医師の協力で、声帯運動の評価のための喉頭ファイバースコープや、嚥下障害の評価のための嚥下造影検査を定期的に評価して、気管切開、人工呼吸器装着、胃瘻造設の適応を判断しています

MRIはMSAの診断に重要な特徴的な所見を描出できるので、非常に有用です(図3)。

 

図3

左:MSA−P患者の被殻外側の信号異常(*強調画像)

右:MSA−C患者の脳幹小脳萎縮と橋の十字サイン(2強調画像)

 

 

 

 

 

 

Fig31

 

 

Fig32

 

MSA患者の呼吸・栄養管理

 

 この3年間に当院に入院した計20名のMSAの患者様の呼吸管理と栄養管理は表4の通りでした。この3年間に、20名の患者様の中の2名が死亡しています。さまざまなステージの患者様がいますが、人工呼吸器装着者が3名(15%)、気切を受けた患者様4名(20%)で、両者合わせると35%となります。PEG造設者も5名(25%)でした。

 

表4 MSA患者20名の呼吸管理と栄養管理

 

 

MSA−C

MSA−P

患者数

11

9

死亡

1

1

人工呼吸器

1

2

気切

1

3

PEG

1

4

脊髄小脳変性症

 

 家族性脊髄小脳変性症の遺伝子診断が可能となっています。当院においても、自治医科大学神経内科の協力を得て、遺伝子診断を行っていますが、この3年間の結果は以下の通りです。

 

Machado-Joseph

4家系4名

SCA6

2家系2名

16q-linked ADCA

1家系1名

DRPLA

2家系2名

未定

1家系1名

 

 

患者様の慰安のために

 

 神経難病センター入院中の患者様の慰安のために折に触れて季節行事を行っています。

図4 左:クリスマス回診、右:お花見

 

Fig42

 

 

Fig41