診療科のご案内

循環器内科

循環器内科・心臓外科合同抄読会 平成25年

平成25年12月11日(担当:兼光)

Cardiac-Resynchronization Therapy in Heart Failure with a Narrow QRS Complex (N Engl J Med 2013; 369:1395-1405)
現在のガイドラインでは、CRTは洞調律、内科的治療抵抗性、低LVEF、QRS間隔大である患者に適応があるとされている。QRS間隔が広くない心不全患者にCRTは有益かどうか検討した多施設ランダム試験。対象はNYHA分類III/IV度で、ICDの適応がある収縮性心不全例。CRT群で死亡例が有意に増加したため研究は中断した。

心不全入院 対照群 22.2 CRT群 24.5 (P0.25)
死亡 対照群 6.4 CRT群 11.1 (P0.02)
心血管イベントによる死亡 対照群 4.2 CRT群 9.2 (P0.004)
心不全死 対照群 2.5 CRT群 4.2 (P0.15)
デバイス関連イベント件数 対照群 93 CRT群 50 (P0.01)

今回の研究では、CRT群の方にデバイス関連合併症(特にリード関連)が多かった。
収縮性心不全でQRS間隔が130msec以下の患者には、CRTは死亡率や心不全入院を減らさなかった。CRTはこのような患者の死亡率を上げる可能性があると結論。

平成25年12月4日(担当:國友)

Association between early surgical intervention vs watchful waiting and outcomes for mitral regurgitation due to flail mitral valve leaflets.
JAMA 2013;310:609–16
<目的>ガイドライン上クラスIではない重度MRに対する治療については、早期手術か内科治療+経過観察を行うかは未だ定まっていない。多施設大規模解析により両者の長期遠隔成績の比較を行うことで治療方針を明確にする。
<方法>フランス(2施設)、イタリア(2施設)、ベルギー(1施設)、アメリカ(1施設、メイヨークリニック)の4か国でMR患者登録を行っているThe Mitral Regurgitation International Database (MIDA)を使用(平均観察期間は10.3年であり98%でフォローアップが達成されている)。1980-2004年までの連続2097例中1021例がガイドライン上クラスⅠではない重度MRであり、そのうち446例には診断後3カ月以内で手術が行われ、575例には内科治療+経過観察が行われたが、この長期遠隔成績を比較した(Overall解析, Propensity score-matched cohort解析, Inverse probability-weighted cohort解析)。
(アウトカム)
死亡、心不全、新たに発生したAf

<結果>
1) 早期手術群と経過観察群の背景因子には、年齢、併存合併疾患、愁訴、肺高血圧、クラスⅡ要因、左室拡張期径、左室収縮期径、左房径において差が認められた。
2) 早期手術群446例中93%に弁形成が可能であり、経過観察群575例中339例(59%)には中間値1.65年で手術が行われた(87%弁形成)。
3) 早期および長期成績は下記のとおり

早期
Overall:死亡率 早期手術群 経過観察群
3カ月 1.1% 0.5% p=0.28
Overall:心不全発生率 早期手術群 経過観察群
3カ月 0.9% 0.9% p=0.96
Overall:新Af発生率 早期手術群 経過観察群
3カ月 6.2% 1.2% p<0.001
長期
Overall:生存率 早期手術群 経過観察群
5年 95% 84%
10年 86% 69%
20年 63% 41% p<0.001
早期手術群で長期生存率が有意に良好となっており、これはPropensity score-matched cohort解析でも同様であった。
Overall:心不全発生率 早期手術群 経過観察群
10年 7% 23%
20年 10% 35% p<0.001
経過観察群で心不全発生率が有意に多くなっており、これはPropensity score-matched cohort解析でも同様であった。
Overall:新Af発生率
短期3か月では先に示した通り有意に早期手術群が多かったが、5、10、15、20年の長期では差がなかった。

Cox回帰分析では、Overall 解析、Propensity score-matched cohort解析、Inverse probability-weighted cohort解析、いずれも早期手術群が有意に長期生存に有効で、また、長期にわたり心不全発生を抑えることが示された。新たなAf発生に関しては、早期手術は影響を与えていない。

各期間(短期=3-12カ月、中期=1-5年、長期=5年以上)で人年法による死亡率を解析してみると、早期手術はいずれの期間でも相対リスクを有意に減らしており、長期では52.6%減少させていた。また、クラスIIを有するか否か、あるいは診断時に自覚症状があるか否かで同様に各期間での死亡率についてサブ解析を行ってみると、クラスIIのあるなしや、自覚症状のあるなしにかかわらず、早期手術によって中期および遠隔死亡のリスクを有意に減少させることが判明した。

<結論>ガイドライン上クラスIではない重度MRに対する早期手術群の長期成績(生存率および心不全回避率)は、Overall解析、Propensity score-matched cohort解析、Inverse probability-weighted cohort解析のいずれにおいても経過観察群よりも良好であった。ただし新たな心房細動発生には差がなかった。5年以上の長期遠隔死亡リスクは早期手術により52.6%減少しており、またサブ解析の結果からも、クラスI、クラスII、もしくは自覚症状が全く乏しい場合においても、重度MRに対しては早期手術を行うことは有用と思われる。

平成25年11月22日(担当:柘植)

Coronary Revascularization in Diabetic Patients:
Off-Pump Versus On-Pump Surgery
Ann Thorac Surg 2013;96:528–34
糖尿病患者に対するoff-pump CABGの、on-pump CABGに対する優位性を検討。ドイツの1施設で2009年2月から2011年10月にCABG単独手術を行った糖尿病患者857人(off-pump 355人、on-pump502人)について比較したコホート研究。propensity scoreマッチングにより解析。プライマリエンドポイントは30日死亡率。セカンダリエンドポイントは主要合併症と死亡率とした。
結果:Off-pump群は30日死亡率が有意に低く(オッズ比0.09)、術後神経学的合併症(同0.31)、血液濾過(同0.30)、6ヶ月死亡率(ハザード比0.27)、1年死亡率(同0.40)と、off-pump群の成績が良好であった。

平成25年11月13日(担当:武田)

Thrombus Aspiration during ST-Segment Elevation Myocardial Infarction
N Engl J Med 2013; 369:1587-1597
スウェーデンを中心に、アイスランド、デンマークの3ヶ国でST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者約7300例に対し、血栓吸引療法(TA)を施行後にPCIを施行した群(TA+PCI群)とPCIを単独で行う群(PCI群)に無作為に1:1で割り付け、30日間の予後を調査した。30日時点での死亡率は2.8%(TA+PCI群)と3.0%(PCI群)で両群間に差は無く、また、再入院や再梗塞率でも両群間で差は認めなかった。STEMIに対し、PCI前のTA施行では、発症後30日の時点で死亡率の改善は得られなかった。

平成25年11月8日(担当:吉永)

A Randomized Trial of Colchicine for Acute Pericarditis
N Engl J Med 2013;369:1522-1528
急性心膜炎に対するコルヒチンの有効性、安全性、再発予防効果について検証した試験。
従来の治療方法であるアスピリン、イブプロフェン、ステロイド投与を受けている急性心膜炎患者240例をコルヒチン投与群120例とプラセボ群120例に無作為に割り付けた。コルヒチンの投与期間3か月間で、投与量は、体重70kg以上の患者は1回0.5mgを1日2回。 体重70kg以下の患者は1回05.mgを1日1回で行われた。1次エンドポイントは症状の持続もしくは再発とした。
結果、症状の持続もしくは再発を認めた患者は、コルヒチン群で20例(16.7%)、プラセボ群で45例(37.5%)とコルヒチン群で有意に少なかった。コルヒチン群では、投与72時間後の症状の持続、1週間後の寛解、患者1人当たりの再発の回数、心膜炎に関連した入院数、最初の再発までの時間に関して、プラセボ群より有意に優れていた。
また、両群間で有害事象やその発生率に有意差は認められず、重大な有害事象も認められなかった。

平成25年11月1日(担当:高田)

Risk of Major Adverse Cardiac Events Following Noncardiac Surgery in Patients With Coronary Stents JAMA. 2013;310(14):1462-1472
<背景>AHA/ACC guidelineでは冠動脈ステント留置後は、DESでは半年以降、BMSでは6週間以降の手術を推奨している。しかしこれに関するエビデンスは限られたものであり、確立されたものでない。
<目的>冠動脈ステント留置後の非心臓手術における合併症を規定する因子を探る。
<方法>米国退役軍人省関連病院において、2000年から2010年の間に冠動脈ステント留置された患者に対する2年以内の非心臓手術41,989件を後ろ向きに登録した。患者背景、手術法、心臓リスクで調節後、非線形一般化加法モデルで手術までの期間およびステントのtypeとMACEとの関係を解析した。また、抽出した患者によるcase-control studyにおいて、抗血小板療法とMACEとの関係を調べた。主要outcomeは術後30日以内の、全死亡、MI、冠動脈再灌流療法からなるMACE。
<結果>124,844人の冠動脈ステント留置患者で2年以内に非心臓手術を受けたのは28,029人であり、そのうち4.7%の1980件の手術でMACEが発生した。ステント留置から手術までの時間とMACEの発生率には関連がみとめられた(6週間以内が11.6%、6週から6か月が6.4%、6-12か月が4.2%、12-24か月が3.5%、p<0.001)。調整後の、MACEと最も関係がみとめられた3つの因子は、非待機手術、6か月以内のMI、revised cardiac risk indexであった。12因子を投入した解析モデルにおいて、手術までの時間は5番目に関連の強い因子であった。ステントタイプについては、関連が最も弱く、DESとMACEの間に関連はみとめられなかった。ステント留置後6か月以降は、DES、BMSでMACEの発生に差がみとめられませんでした。患者背景をマッチさせて抽出した284人でのcase control studyでは、抗血小板療法の休薬とMACEとの間には関連がみとめられなかった。
<結論>冠動脈ステント留置後2年以内に非心臓手術を受ける患者において、MACEと関連がみとめられたのは、緊急手術、高い術前心リスクであり、半年以降はステントのタイプ、および手術までの時間はMACEと関連がみとめられなかった。DES、BMSのステントの種類および手術までの期間を強調した現行ガイドラインは再考の余地がある。

平成25年10月25日(担当:柴)

A Risk Score for Predicting Near-Term Incidence of Hypertension: The Framingham Heart Study.
Parikh et al. Ann Intern Med 2008;148:102-110
将来高血圧を発症するリスクの高い症例を層別化することで将来の心血管疾患発症を抑制し、医療費削減に結び付くと考えられている。本研究ではフラミンガム研究のコホートから20-69歳(女性54%)の高血圧のない1717名を対象にして日常臨床で得られる因子から高血圧発症を予測するリスクスコアの作成を検討した。中央値3.8年の追跡期間の間に796人が新規に高血圧を発症した。多変量解析によると年齢、性別、収縮期/拡張期血圧、BMI、両親の高血圧歴、喫煙が有意に高血圧発症と関連していた。このモデルによると4年後の高血圧発症リスクは、34%が低リスク(<5%)、19%が中等度リスク(5-10%)、47%が高リスク(<10%)と考えられた。c統計量は0.788と算出された。このモデルは白色人種以外や糖尿病合併症例に外挿できるかは今後の検討課題であるが、日常臨床で活用できるツールとして有用と思われる。

平成25年10月18日(担当:上小牧)

Dabigatran versus Warfarin in Patients with Mechanical Heart Valves
N Engl J Med 2013 Sep 26;369(13):1206-14
人工弁置換術後の患者に対するダビガトランとワーファリンの血栓予防効果および出血性副作用の発生率を無作為化容量検証第2相試験にて比較した。252人の患者が登録された時点で、ダビガトラン群で血栓塞栓症と出血イベントが有意に高い発生率となり、試験が中止された。ダビガトランは人工弁という異物に接した際に血液凝固の活性化を抑制する能力がワーファリンと比較して低い可能性があると考えられた。

平成25年10月11日(担当:田川)

心筋梗塞における予防的血管形成術の無作為化試験
Randomized Trial of Preventive Angioplasty in Myocardial Infarction
D.S. Wald and others
N Engl J Med 2013; 369 : 1115-23.
ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)において、梗塞責任冠動脈に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行うと予後が改善する。一方、狭窄度の大きな非梗塞病変に対する PCI(予防的 PCI)の有効性は明らかになっていない。2008~13年に、英国の5施設で梗塞病変にPCIを施行する急性STEMI患者465例(左脚ブロック3例を含む)を登録し、予防的PCIを施行する群(234例)と施行しない群(231例)に無作為に割り付けた。その後の狭心症に対するPCIは、虚血という他覚的根拠の認められる難治性狭心症にのみ施行した。主要転帰は、心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、難治性狭心症である。データ安全性モニタリング委員会は、2013年1月までに有意な結果から判断し、試験の早期中止を勧告した。平均追跡期間23ヵ月で、主要転帰が発生したのは予防的PCI施行群21例、非施行群(梗塞病変にのみPCIを施行)53例であり、患者100例あたりに換算するとそれぞれ9件、23件であった(予防的PCI施行群のハザード比0.35,95%信頼区間[CI]0.21~0.58,P<0.001)。主要転帰3項目のハザード比は、心血管系の原因による死亡0.34(95%CI0.11~1.08)、 非致死的心筋梗塞0.32(95%CI0.13~0.75)、難治性狭心症0.35(95%CI0.18~0.69)であった。STEMIと多枝冠動脈疾患を有し梗塞病変にPCIを施行する患者において、狭窄度の大きな非梗塞病変に対する予防的PCIは、梗塞病変にのみPCIを施行した場合と比較して、心血管系有害事象の発生リスクを有意に低下させた。

平成25年10月9日(担当:國友)

Association of warfarin therapy duration after bioprosthetic aortic valve replacement with risk of mortality, thromboembolic complications, and bleeding.
JAMA 2012; 308: 2118–25
<背景>生体弁は65歳以上の比較的高齢の患者に使用される機会が多い。そのような年齢層の患者では、弁置換後の血栓塞栓症のリスクと出血のリスクをバランス良く管理しワーファリンの投与期間を決める必要がある。生体弁を用いたAVRでは、現在種々のガイドラインにおいて3か月のワーファリン内服が推奨されているが、これはある1つの観察研究の結果(JACC,1995)に基づいており、エビデンスに乏しい可能性がある。
<目的>大規模解析により、生体弁を用いたAVR症例においてワーファリン使用期間と血栓塞栓症、出血、心血管死亡の関連を調べる。
<方法>デンマークNational Patient Registryから、1997(1月)~2009年(12月)に生体弁を用いたAVRを施行された4075例を対象。ワーファリンをある定められた期間(30~89日、90~179日、180~364日、365~729日、730日以上)使用した場合において、使用中止により脳卒中、血栓塞栓症、出血、心血管死亡の発生率を人年法にて解析。
<結果>

30~90日での推定イベント発生
項目 ワーファリン(-) ワーファリン(+) 補正発生比
脳卒中 7.00/100人・年 2.69/100人・年 2.46
血栓塞栓症 13.07/100人・年 3.97/100人・年 2.93
出血 11.86/100人・年 4.10/100人・年 2.32
心血管死亡 31.74/100人・年 3.83/100人・年 7.61
90~179日での推定イベント発生
項目 ワーファリン(-) ワーファリン(+) 補正発生比
脳卒中 2.48/100人・年 2.46/100人・年 1.00
血栓塞栓症 5.04/100人・年 1.87/100人・年 2.65
出血 2.31/100人・年 3.23/100人・年 0.66
心血管死亡 6.50/100人・年 3.37/100人・年 3.51

<結論>生体弁AVRにおいて、3か月以内のワーファリン中止は、脳卒中、血栓塞栓症、出血、心血管死亡の発生率を著しく増加させており、6か月以内のワーファリン中止でも心血管死亡発生率は依然高い。ガイドライン上推奨される3か月に加えさらに3か月延長することが、心血管死亡発生を抑えかつ出血合併症を予防する上でも望ましいと思われる。

平成25年9月20日(担当:吉永)

Tricuspid annuloplasty concomitant with mitral valve surgery: Effects on right ventricular remodeling
J Thorac Cardiovasc Surg 2013 Jun 27. pii: S0022-5223(13)00563-1. doi: 10.1016/j.jtcvs.2013.05.007.
僧帽弁手術と同時に三尖弁形成術(TVP)を施行された群(TVP群)45例と僧帽弁手術のみを施行された群(コントロール群:C群)33例の周術期の右室リモデリングについて検証した試験。さらに、TVP群は、術前のTRが3度以上の群13例と術前のTRは2度以下であるが三尖弁輪拡大(TAD)(diameter>40mm or 21mm/m2)を認めた群32例で比較検証されていた。
結果は、TVP群では周術期のend-diastolic sphericity index(RVSI=lomg-axis length/short-axis length)は有意に増加していた。C群ではRVSIは有意に低下し、さらに、indexed RV end-diastolic area(RVEDA)が有意に増加していた。また、TVP群の中でも、TRが3度以上の群でRVEDAは有意に減少していた。
中等度以上のTRやTADを有する症例に対して、僧帽弁手術と同時にTVPを施行することは、術後に右室の良好な形状変化をもたらし、右室の拡大を予防するとの結論であった。

平成25年9月13日(担当:武田)

Nonemergency PCI at Hospitals with or without On-Site
Cardiac Surgery (NEJM 2013;368:1498-508.)
米国マサチューセッツ州において、緊急性のないPCI患者を3:1の割合で、心臓手術設備の無い病院でPCIを受ける群と、心臓手術設備のある病院でPCIを 受ける群に、無作為に割り付けた。主要エンドポイントは30日後と12ヶ月後の時点におけるMACE(死亡、心筋梗塞、血行再建術の再施行、脳卒中)の発生率とした。
結果、2774例が心臓手術設備の無い病院でPCIを受け、917例が心臓手術設備のある病院でPCIを受けた。MACEの発生率は、30日の時点で心臓手術設備の無い病院で9.5%、心臓手術設備のある病院で9.4%、12ヶ月の時点で心臓手術設備の無い病院で17.3%、心臓手術設備のある病院で17.8%であった。いずれの時点においても有意差は認められなかった。結論として、緊急性のないPCIは心臓手術設備のある病院で施行しても無い病院で施行しても、30日と1年の時点で臨床イベントの発生に差は無かった。

平成25年7月19日(担当:柘植)

Safe exclusion of pulmonary embolism using the Wells rule and qualitative D-dimer testing in primary care: prospective cohort study.BMJ 2012;345:e6564.
Wells ruleとD-dimerの併用は、プライマリ・ケアにおいて肺塞栓の除外診断に有用かを検討。
2007年~2010年の期間、オランダの3地域において症状から肺塞栓症が疑われた患者を対象に前向きコホート研究を行った。
Wells score 4以下かつD-dimer陰性の場合、感度94.5%、特異度51.0%、偽陰性率1.5%となり、両者の併用で肺塞栓を安全かつ効果的に除外できるという結果になった。

平成25年7月12日(担当:兼光)

Use of Azithromycin and Death from Cardiovascular Causes
(N Engl J Med 2013; 368: 1704-12)
アジスロマイシン(AZM)の使用が心血管病のリスク群では心血管病による死亡リスクを増加させることは知られているが、一般人においても同様であるかは不明であった。1997年から2010年の間、処方データ、死因などが入手できるオランダ人成人(18-64歳)を対象としたコホート研究。
AZM 1102050エピソード 対 抗菌薬なし 1102050エピソード
AZM 1102419エピソード 対 PCV 7364292エピソード
を比較した。
AZM群は抗菌薬なし群を比較すると、心血管病による死亡のリスクは増加あり。AZM群は心血管病による死亡は17例 (1.1/千人年)、PCV群は146例(1.5/千人年)。propensity scoreで調整するとAZM群とPCV群に差はなし。リスクの増加が、AZM対抗菌薬なし群で差があり、AZM対PCV群で差がなかったことは、治療による差ではなく治療対象となった感染症や感染症治療を受ける群の特徴に原因があるだろうと考察されていた。
一般的なオランダ人若年、中年の成人においては、AZMの使用は心血管病による死亡のリスクを増加させなかったと結論している。

平成25年7月5日(担当:柴)

Effect of Spironolactone on Diastolic Function and Exercise Capacity in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction The Aldo-DHF Randomized Controlled Trial
JAMA. 2013 Feb 27;309(8):781-91. doi: 10.1001/jama.2013.905.
本試験は、スピロノラクトンによる拡張機能と運 動耐容能への効果をHFPEFを対象にして検討するために企画され、ドイツとオースト ラリアの10施設が参加して行われた。対象はNYHA II度以上の症状を有する50歳以上のHFPEF患者である。エントリーに際しては、左心室駆出分画が50%以上、心ドップラー試験でgrade-1以上の拡張障害か心房細動の合併がある、呼気ガス分析施行下でのpeak VO2が25mL/kg/min以下であること、を満たすことが必要条件とされた。
対象患者は一日25mgのスピロノラクトンないしプラセーボ投与にランダムに割り付けられ、一次評価項目は、(1)12ヶ月後のE/e'、(2)12ヶ月後のpeak VO2とされた。登録患者は422名の歩行可能な患者で、平均年齢67歳、52%が女性であった。平均11.6カ 月の追跡期間において、拡張機能(E/e')はスピロノラクトン群では低下が認められたのに対しプラセーボ群ではむしろ増加が認められ2群間の変化には有意差が認められた。peak VO2は、 両群でやや増加が認められたが、両群間に有意差は認められなかった。一方、Left ventricular massとN-terminal pro-BNPは スピロノラクトン群で有意な改善が認められた。しかしながら、心不全症状とQOLスコアの変化では両群に改善はなく、6分間歩行距離においてはスピロノラクトン群で有意な減少が認められた。さらに、スピロノラクトン群では、有意な血清K値の増加と糸球体濾 過量の低下が認められた。

平成25年6月28日(担当:上小牧)

Association of Perioperative β-Blockade With Mortality and Cardiovascular Morbidity Following Major Noncardiac Surgery JAMA. 2013;309(16):1704-13
非心臓手術を受けた患者の術後30日間の予後と、周術期早期のβブロッカー使用の関連を決定することを目標として行われた研究である。
2005年1月から2010年8月までの間の、104の医療センターの延べ136,745人の患者をpropensity scoreで1:1に調和させ37,805人のペアに分け、βブロッカーを非心臓手術の術日または手術終了後に使用することの評価を後ろ向きcohort分析にて行った。30日間の全ての死亡、心疾患発症(心停止またはQ波心筋梗塞)を比較した。
propensity score matchingを行ったcohortでは、βブロッカー使用は低死亡率と関連した(相対危険度0.73、95%信頼区間 0.65~0.83;P<0.001)。2~4個の心危険指数要因を持つ患者では、βブロッカーの使用は著明な死亡率低下と関連したが、こ の関連は非血管手術を受けた患者に限られた。βブロッカーの使用は、非致死的Q波心筋梗塞と心停止の減少とも関連したが、これも非血管手術患者に限られた。
propensity score matchingを行った非心臓非血管手術を受けた患者では、βブロッカーの使用が2つ以上の後で調べた心危険指数要因を持つ患者の30日間の全死亡の低下と関連した。このことは、心危険指数要因の使用が周術期のβブロッカー使用の開始と継続を決定することをサポートしている。心危険指数要因における低リスクから中等度リスクの患者を含む多施設無作為抽出試験が、この観察結果が正しいことを証明するであろう。

平成25年6月21日(担当:田川)

Biventricular Pacing for Atrioventricular Block and Systolic Dysfunction
N Engl J Med. 2013;368:1585-93.
背景:右室心尖部ペーシングの割合が高いと左室収縮機能不全が促進される可能性がある。両室ペーシングにより患者の死亡率、障害発生率、有害な左室リモデリングが低下されるかどうか検討した。
方法:房室ブロックに対するペーシングの適応があり、NYHAⅠ~Ⅲ度の心不全を有し、左室駆出率50%以下の患者を登録した。患者に心臓再同期ペースメーカーまたはICDを植え込んだあと、標準的な右室ペーシングと両室ペーシングのいずれかに無作為に割り付けた。
結果:691例を37ヶ月追跡。主要転帰(全死因死亡、経静脈的治療を有する心不全での緊急来院、左室収縮末期容積係数の15%以上の増加)は右室ペーシング群では342例中190例(55.6%)、両室ペーシング群では349例中160例(45.8%)に発生。経時的な主要転帰の発生率は、両室ペーシング群の患者のほうが右室ペーシング群の患者よりも有意に低く、(ハザード比0.74、95%信頼区間0.6-0.9)、結果はペースメーカー群とICD群で同等であった。
結論:房室ブロック、左室収縮機能不全、NYHAⅠ~Ⅲの心不全を有する患者において両室ペーシングは右室ペーシングより優れていた。

平成25年6月07日(担当:兼光)

n-3 Fatty Acids in Patients with Multiple Cardiovascular Risk Factors
(N Engl J Med 2013; 368: 1800-8)
心筋梗塞の既往がない、心血管病の 多重リスクを持つ患者群に対して、n-3不飽和多価脂肪酸(PUFA)の併用が心血管病による死亡を減らすことに有益かどうか検討。
double-blind, placebo-controll試験(実薬はn-3PUFA 1g/日、 偽薬はオリーブオイル1g/日)。一次エンドポイント(PEP)は、心血管病による死亡、入院とした。実薬群で中性脂肪が有意に低下した以外は有意な変化はなし。PEP発生は、実薬群10.3%、 偽薬群10.1%で有意差なし。心不全による入院件数は、実薬<偽薬で有意差あ り。PEP発生は女性<男性であり、実薬・偽薬間でも有意差あり。
GISSI-PrevenzioneやGISSI-HFとの違いはなにか?
n-3PUFAの有益性は心臓突然死の減少が寄与。今回の試験では、心臓突然死や冠動脈疾患死が少なかった。n-3PUFAは心室性不整脈イベントを起こしやすい患者に対して効果があると考えられて いるが、今回の試験では心臓突然死や不整脈イベントを検出するパワーが不足していたと考察あり。

平成25年5月24日(担当:國友)

Coronary artery bypass graft surgery versus percutaneous coronary intervention in patients with three-vessel disease and left main coronary disease: 5-year follow-up of the randomised, clinical SYNTAX trial
Lancet 2013; 381: 629–3
(背景)SYNTAX trialは、左主幹部病変と3枝病変を有する重症冠動脈病変患者を対象にした、第一世代DES(パクリタキセル溶出ステント)のCABGに対する非劣性を評価する試験である。2005年3月~2007年4月までの症例で、ランダム化試験に1800例が振り分けられており、LMT病変はPCI群で38.5%、CABG群で38.8%を占めている。
本論文では、SYNTAX trial ランダム化試験5年の遠隔成績を出している。
(結果)ハードエンドポイントにおいて、(1)総死亡率は有意差なし(2)心筋梗塞は2年目以降PCI群が有意に多くなり、5年時点でもPCI群が有意に多かった(3)strokeは1年ではCBAG群が有意に多かったが、2年目以降差はなかった(4)ハードエンドポイントの合算ではPCI群が有意に多かった。ソフトエンドポイントである再血行再建率はPCI群が多く、ハード+ソフト合算であるMACCE発生率でもPCI群が有意に多かった。SYNTAX score 別のMACCE発生率では、低スコアでは両群に差はなく、中スコア以上でPCI群が有意に多かった。
病変別にSYNTAX scoreとMACCE発生率を解析すると、LMT病変患者では中スコアまで両群に差はなく、高スコアでPCI群が有意に多くなっていた。一方、3枝病変患者では低スコアで有意差はないものの、中スコア以上では有意にPCI群が有意に多くなる結果であった。
(結論)SYNTAX scoreが解剖学的な冠動脈の複雑さを表現していることを考えると、病変が複雑になればまるほどPCI治療は難度が上がり、結果遠隔成績に影響を与えている。一方でCABGはSYNTAX scoreの影響を受けておらず、その成績は解剖学的な複雑さとは無縁である。
SNTAX中スコア以上の複雑病変症例において、CABGは未だに標準治療とされるべきであるが、SNTAX低スコア症例、もしくは中スコア以下のLMT病変症例へのPCIはacceptableである。複雑な冠動脈病変については、インターベンション循環器内科医と心臓外科医との話し合いで、最良の治療を検討すべきである。

平成25年5月10日(担当:吉永)

Effects of Off-Pump and On-pump Coronary-Artery Bypass Grafting at 1 Year
N Engl J Med 2013;368(13):1179-88
Off-pump CABGを施行された2375例とOn-pump CABGを施行された2377例の1年間の成績を比較、検証した試験:術後1年における死亡率、非致死性の心筋梗塞、脳梗塞、透析導入を要した腎不全の発症率は両群間で有意差はありませんでした。また、再血行再建率、QOL、神経認知機能に関しても両群間で有意差はありませんでした。

平成25年5月2日(担当:武田)

Treatment of Anemia with Darbepoetin Alfa in Systolic Heart Failure
N Engl J Med 2013; 368:1210-1219.
左室収縮能低下を原因とする心不全かつ、貧血を合併する患者群にダルべポエチンを投与し、予後が改善されるかを調査したランダム化二重盲検試験(RED-HF)の結果が報告された。
2278名の収縮障害型心不全かつ中等度の貧血(血清ヘモグロビン濃度9.0-12.0g/dl)を有する患者群をダルべポエチン投与群とプラセボ群に分け、約5年追跡調査した。結果、ダルべポエチン投与群は目標通りの貧血の改善効果を達成したものの、全死亡、心臓死、心不全による入院といったエンドポイントを有意に改善しなかった。中等度の貧血を有する収縮障害型心不全の患者群に対しては、ダルべポエチン投与による予後改善効果は認められなかった。

平成25年4月12日(担当:柘植)

Off-Pump or On-Pump Coronary-Artery Bypass Grafting at 30 Days
N Engl J Med 2012;366:1489-97.
CABGについて、off pump、on pumpの30日以内の予後を比較検討。無作為化、多施設で行い、期間は2006年~2011年。79病院、19カ国、4752人が対象。
30日以内の死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞、透析が必要な腎不全の発症についてはoff/on pump間で有意差が認められなかった。off pump群では血液製剤の使用率、出血による再手術率、AKI発生率、呼吸器合併症の発生率の低下をみたが、再血行再建の施行率は上昇するという結果になった。

平成25年3月29日(担当:柴)

Short PM, et al. Effect of Beta blockers in treatment of chronic obstructive pulmonary disease:
a retrospective cohort study
BMJ 2011;342:d2549
β遮断薬は適正に使用すれば心血管疾患患者の予後を改善することが知られています。一方COPD患者においてはFEV1低下の懸念などから使用が敬遠される傾向にあります。
著者らはNHS Tayside Respiratory Disease Information SystemからCOPD症例5977名を抽出してβ遮断薬のイベント減少効果について後ろ向きに解析を行いました。
平均追跡期間4.35年の間に、β遮断薬使用群では22%の全死亡低下が認められました。同様に心筋梗塞死、COPD増悪による急性期ステロイド投与、呼吸器疾患による入院についても有益な効果が示唆されました。COPD患者におけるβ遮断薬投与が考慮する価値のある治療であると結論しています

平成25年3月22日(担当:菅野)

Fibrinolysis or Primary PCI in ST-Segment Elevation Myocardial Infarction
N Engl J Med 2013.DOI: 10.1056/NEJMoa1301092
2008年から2012年にかけて15か国の99施設にて無作為に1892名を抽出し、線溶療法群とプライマリーPCI群に分けての研究。
線溶療法群は、発症後3時間以内の患者で、1時間以内にプライマリーPCIを受けることができなかったSTEMIの患者にtPAを施行。主要エンドポイントは死亡、ショック、うっ血性心不全、または30日以内の再梗塞とした。
結果、線溶療法では、1時間以内にPCI施行できなかった早期STEMI患者において効果的な再灌流を得る事が出来た。しかしながら、線溶療法は頭蓋内出血のリスクを増加させてしまうことが問題点として指摘された。

平成25年2月22日(担当:兼光)

Nidorf SM et al. Low-Dose colchicine for secondary prevention of cardiovascular disease.
J Am Coll Cardiol 2012 December 13
LoDoCo(Low-Dose Colchicine)試験。PROBE法を用いて安定冠動脈疾患患者532人にコルヒチン0.5mg/日 内服群(282人)と対照群(250人)に割り付け、急性冠動脈疾患(ACS)、院外心停止、非心原性脳梗塞発生を合わせた複合エンドポイント(主要エンドポイント)の発生を36カ月(中央値)観察。
主要エンドポイントはコルヒチン群15人、対照群40人に発生(ハザード比0.33)。 内服群ではステント関連でないACSを生じにくい(9/282 vs. 30/250、HR:0.26)。
筆者らは、スタチンや他の標準的な二次予防治療にコルヒチン0.5mg/日 を加えることは効果的であると結論。

平成25年2月15日(担当:上小牧)

Anju Nohria, et al. Cardiorenal Interactions: Insights From the ESCAPE Trial. JACC. 2008; 51 (13): 1268-74
433人の心不全入院患者のうち入院時腎機能異常群(概算GFR 60ml/分未満)、入院中腎機能悪化群(血清クレアチニン0.3mg/dl以上の上昇)の入院6ヶ月後の死亡率、死亡率または再入院率を比較した。
入院中腎機能悪化群では死亡率、死亡率または再入院率は上昇しなかったが、入院時腎機能異常群ではそれらが上昇した。以上より利尿剤や心不全治療薬を腎機能が悪化したからといって早期に中止する必要がないことが示された。

平成25年1月11日(担当:柘植)

Stroke and Bleeding in Atrial Fibrillation with Chronic Kidney Disease N Engl J Med 2012;367:625-35.
CKDを有する非弁膜症性心房細動患者の、脳卒中と血栓塞栓症、出血のリスク調査。
心房細動患者では、CKDを有すると脳卒中または血栓塞栓症と出血リスクが1.5-1.8倍に上昇する。ワーファリンはCKD患者の脳卒中または血栓塞栓症リスクを低下させる一方、アスピリンは低下させない。ワーファリンとアスピリンは共に出血のリスクを高めるという結果になった。